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【水素脆性の評価】水素濃度を測定する方法と試験に使用する装置

【水素脆性の評価】水素濃度を測定する方法と試験に使用する装置

水素脆性(ぜいせい)を引き起こす水素の濃度を測定する方法と、その試験に使う装置について紹介します。試験装置は、金属片から放出される試料ガスの中から水素を分離する分離器と、それを検出する検出器の組み合わせによって構成が決まります。今回は、昇温脱離分析による水素濃度測定で一般的に使われている装置について見ていきましょう。

昇温脱離分析による水素濃度測定

鋼材が水素を吸蔵することによって脆化する水素脆性という現象は、鋼材中の水素濃度を測定することにより評価できます。水素濃度を測定する代表的な方法が、昇温脱離分析です。詳しく見ていきます。

昇温脱離分析とは

昇温脱離分析は水素濃度の測定で一般的に用いられる分析法です。英語ではThermal Desorption AnalysisまたはThermal Desorption Spectrometryとなり、それぞれTDA、TDSと略されます。

試験方法としては、試料を真空または不活性ガスの中で加熱し、放出される水素量を検出器により測定する手法が一般的です。

材料にトラップされている水素量は、起こっている欠陥の種類により異なります。この特性を表したものが水素脱離の割合を示した水素放出曲線で、その形状やピーク温度と比較することで欠陥の種類や捉えられている水素量の推定が可能です。

昇温脱離分析の目的

昇温脱離分析による水素濃度測定は、金属に起こる水素脆性の評価を目的として行われます。

金属が本来持つ粘り強さを失い、塑性変形をほとんど伴わずに破壊に至る現象を脆性破壊といいますが、その原因はいくつかあります。水素の影響によって金属が靭性(じんせい)を失い脆化する現象は水素脆性と呼ばれ、ハイテンのような引張強さの高い金属でよく発生します。

水素がなぜ脆化を引き起こすのか、そのメカニズムは明確な解明に至っていませんが、水素濃度によって脆化の度合いが違うことは判明しています。そのため、水素脆性の評価を行うために昇温脱離分析による水素濃度測定が行われます。

水素脆性についての試験は「水素脆性の原因となる水素濃度測定」と「水素脆性による遅れ破壊試験」の大きく2つに分けられます。前者は水素濃度を測定することで水素脆性の起こりやすさを診断するものです。一方後者は、実際に水素脆性が起こっていると考えられる試料に負荷をかけ、どのくらいで破壊に至るかを測定する試験です。

水素脆性による遅れ破壊試験については、「水素脆性の試験方法―遅れ破壊の可能性を把握するために」でも解説しておりますのでご覧ください。

昇温脱離分析による水素濃度測定は前者に該当する試験で、水素脆性が起こりうる可能性を判明させるものです。水素脆性の可能性を把握することで、鉄鋼材料の製造時に行った処理とベーキング処理の方法が適切だったかどうかを判定できます。

昇温脱離分析に使用する水素濃度測定装置の種類と特徴

昇温脱離分析は、試験片を加熱することによりその試験片が吸蔵するガスを放出させ、その放出されたガスから水素を分離し検出する試験ですが、その分離方法と検出方法にはいくつかの種類があります。

水素の分離方法

昇温脱離分析では、ガスクロマトグラフィー(GC)を利用して水素を分離抽出します。ガスクロマトグラフィーでは、カラムと呼ばれる分離装置によって試料ガス中の成分を分離します。

昇温装置で金属片を加熱することによって放出される試料ガス中には、さまざまなガスが含まれています。これらのガスはカラムを通過することによって分離されます。水素脆性の試験では、放出された試料ガスの中の水素濃度を測定することが目的なので、水素ガスを他の成分から分離できるカラムが必要になります。

水素の検出方法

昇温脱離分析において一般的に使われている水素濃度測定装置には、大きく分けて3つの検出方法が採用されています。

  • 質量分析計(MS)
    質量分析計(MS)は四重極などの質量分析部と検出器で構成され、イオン化した気体分子を質量分析部で質量と電化の比に応じて分離し、それを検出器で捕捉します。高感度で5ppb以下の水素の検出が可能です。質量分析計はキャリアガスや水蒸気などの雑ガスが存在する環境下では正確な分析ができないので、真空引きをした環境下で使用されます。そのため、常温下で金属片から放出される水素は真空引きをする際に空気と一緒にチャンバーの外に放出されてしまいます。したがって、昇温脱離分析に質量分析計を使用する場合、検出される水素は昇温後の高温下で放出された水素のみとなります。また、質量分析計は大型で設置スペースと導入コストを必要とします。
  • 熱伝導度検出器(TCD)
    熱伝導度検出器(TCD)は、キャリアガスと試料ガスの熱伝導度の違いを電気的に検出します。水素脆性の試験ではアルゴンなどのキャリアガスが使用され、大気圧環境下での測定が可能です。したがって常温での測定も可能なので、段階昇温により雰囲気温度ごとの水素放出量を測定できます。ただし、水蒸気の影響を受けやすい点には注意が必要です。検出下限は500ppd程度です。装置は大型で設置スペースを要します。
  • 半導体式ガスセンサー
    半導体を用いたセンサーによってガスを検知するもので、SGC(センサーガスクロマトグラフ)は、この半導体式ガスセンサーを検知手段として使用しています。10ppbからの検出が可能で非常に高感度です。大気圧下での測定が可能なので、段階的な昇温により雰囲気温度ごとの水素発生量を測定できます。また、半導体式ガスセンサーは水蒸気の影響も受けません。

代表的な水素濃度測定装置とそれぞれの特徴

昇温脱離分析に使用する水素濃度測定装置は、分離器と検出器の組み合わせで構成されています。代表的な測定装置として次のようなものがあります。

  • GC-MS

鋼材中に含まれる水素量を5ppb以下から高感度で定量分析が可能です。質量分析計(MS)を用いて水素を検出するので、真空引きが必要になります。そのため、試料温度600~1,000℃の高温条件下で放出される水素のみが検出され、常温下で放出された水素は検出できません。また装置は大型で、広い設置スペースを必要とします。

  • GC-TCD

熱伝導度検出器(TCD)は大気圧環境下で測定することができるので、常温下から1,000℃の高温下まで、試料金属中から放出される水素量を加熱温度ごとに段階的に測定できます。検出下限は500ppbで、水素のほか酸素・窒素の測定も可能です。昇温炉内は真空にする必要はありませんが、キャリアガスとして不活性ガスのアルゴンガスの充填が必要です。サイズは比較的コンパクトです。

  • SGC(センサーガスクロマトグラフ)

カラムで分離した水素を半導体式ガスセンサーにより検出します。0.5~10,000ppbと高感度での検出が可能です。大気圧環境下で測定できるので、常温下での水素分析も可能です。昇温炉内は不活性ガスのアルゴンガスを充填する必要があります。測定装置のサイズはコンパクトで省スペースです。

NISSHAの昇温脱離水素分析装置PDHAシリーズ

ここまで紹介してきたように、昇温脱離分析に使用する水素濃度測定装置にはさまざまな種類があります。

NISSHAエフアイエスの昇温脱離水素分析装置PDHAシリーズは、優れた検出精度を持ちながら利便性にも配慮されています。

PDHAシリーズは次のような特徴を持っています。

大気圧下での分析に対応

水素検出器にSGC(センサーガスクロマトグラフ)を使用。NISSHAエフアイエスオリジナルのショートカラムと半導体式ガスセンサーの組み合わせにより、水素を高感度に検出します。半導体式ガスセンサーは大気圧下でガスを検出することができるので、試験系を真空引きする必要がありません。

極微量の脱離水素を高感度に検出

検出下限は10ppbと極微量の水素も検出できるので、常温下の金属片から放出されるわずかな水素も正確に分析することができます。

常温域よりさらに低い-100℃の低温域での分析にも対応

冷却機能も備えたオリジナル昇温炉を用意。-100℃の低温域から800℃の高温域までをカバーし、想定されるさまざまな環境での水素濃度分析ができます。

 

あらゆる面から安全を守る機能

昇温脱離分析は高温を伴うことが前提の試験ですので、安全面での機能も必要です。PDHAシリーズはあらゆる面から安全面を考慮し、各種検知機能を備え安全な測定を行えるよう配慮されています。

優れたコストパフォーマンス

真空ポンプなどの付帯設備が不要なので、導入コストを抑えることができます。

水素脆性研究に新たな視点を

水素脆性は遅れ破壊を引き起こし、重大な事故につながる恐れもある現象です。特に引張強度が求められる部分ほど確実に防がなければなりません。鋼材が水素脆性を引き起こす可能性を把握する昇温脱離分析と、それに使用される水素濃度測定装置は、正確な測定はもちろんのこと、測定範囲の広さや測定環境の適応性なども求められます。NISSHAエフアイエスの昇温脱離水素分析装置PDHAシリーズは、正確で広範囲の測定が可能なだけでなくコンパクトで取り扱いも容易です。水素脆性研究の幅を広げて新たな視点を提供します。昇温脱離水素分析装置PDHAシリーズについて、くわしくは製品紹介ページをご覧ください。

水素分析装置の製品ページはこちら

SGC(センサーガスクロマトグラフ)

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